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 本田牧雄 一般財団法人デジタル文化財創出機構 代表理事
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まず最初に経緯を話したい。発端は2010年3月に開催した「デジタル文化財の創出と活用に関する有識者懇談会」にある。計2回開催し41名に参加いただいた。当時、海外民間資本で世界中の文化財アーカイブ化の動きや、ヨーロッパではデジタルアーカイブの標準化の動きがあった。一方、中国・韓国も国家戦略で進め、日本が取り残されるのではないかとの危機感があった。日本のこの領域を支える土台が必要、国にも体制を作る動きがほしいとの考えから政策提言としてまとめることとした。その後、当機構を2010年5月に設立し「戦略委員会」を組織、計8回開催し提言の骨子をまとめてきた。本日お集まりいただいた100人委員会からもアドバイスいただきながらレベルアップをはかりたい。まず、国家財政破綻の危機にありながら、なぜ文化情報の整備と活用に税金を投入すべく提言を行うのか。人口減少に伴う経済力の低下に対抗できるのは「文化力」である。青柳先生も「スマートパワー」、本日のゲストスピーカー青木先生も「クールパワー」と称しておられた。文化力は国家力である。日本は今後ここに軸をおくべき。さまざまな意見を最小公倍数でとらえ政策提言に結び付けたい。
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 青柳正規 独立行政法人国立美術館 理事長, 一般財団法人デジタル文化財創出機構 業務執行理事
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社会の閉塞感が大きくなり、財政赤字等で色々なものを削減しなければならない状況で、社会は「骨粗しょう症」になりつつあるのではないか。より健康体になるには、文化財のデジタルアーカイブ化を日本社会の中に位置づけていく必要がある。日本では1990年代初め、デジタルミュージアムという概念が広まり始め、世界的にも早くから主張してきた。しかしその後、全社会的な規模で推進されているとは言えず、個々の研究機関が実行していることを総体として横ざしにすることが進んでいない。既存の制約の中で新しいデジタル化の位置づけを社会全体で考えることが、この機構を立ち上げた原点である。ただし、デジタル化にはリアリティがなく、サスティナビリティにも問題があり、セレンディピティに欠けている。全体性が捉えにくく、失った場合に見つけることが困難という側面もある。デジタル化以前の文化や歴史の復元は、少ない資料を元に推移をたどる事でしかできなかった。しかし現在では時代や瞬間を大きく捉えることができる。落書きや金石碑文にはエピグラフィ(碑文学)という学問があり、それら資料を整理する学問としてムゼオロジィ(博物館学)があるなど、各資料には研究整理する学問が対応しているが、デジタルデータの整理保存蓄積は学問分野として成立しえていない。デジタル資料学を作りあげることが重要。プトレマイオス朝時代のアレクサンドリアでは蓄積された知は何かということをムーセイオンに集め、自分達の世界を知り尽くそうとし、天才に頼らない世界を作ろうとした。このことは現代の社会に酷似している。現代の我々は、ムーセイオンを作る代わりにデジタル化でやり直そうとしている。しかしそのためには、大きなプラットフォームが必要である。2005年EUでは文化遺産のデジタル化と検索できるようにする取組みとしてのヨーロピアーナが発足し、文化遺産そのものを継承させるプロジェクトとしてEUが支援を行っている。ヨーロピアーナよりも具体的なことをやろうと我々はしているが、国からの補助金を得ることができていない。311を経験した我々は、文化財ハザードマップを作成することを進めていくべきである。イタリアではすでに取り掛かっている。文化財の分布密度を作り、地形からくる文化財の危険度を明確にする。地域の文化財をハザードマップに載せることが、カルチャルヘリティジを継承するひとつの方策として考えている。
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 長尾 真 国立国会図書館長,一般財団法人デジタル文化財創出機構 顧問
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知識は万人の共有財産であるため、学術、文化、文明の発展のためには、一部の人の独占はよくない。自然科学においては、誰もが使えるという環境が作られている。それを全ての学問に適応させていく。そのためには、世界中どこにいても使えるデジタル化が重要で、原資料はできるだけ使わず、長期間保存していく。様々な災害で原資料が損傷することを考え、デジタル化資料を分散保存することが重要。大震災で損傷した資料の洗浄や復元を国立国会図書館でも行っている。原物が重要であることは変わらないが、利用の仕方によってデジタル化は効果がある。国会図書館では所蔵資料のデジタル化を始め、ネットワーク上の国、地方公共団体、国公立大学、独法のウェブサイトの資料収集、歴史的音盤のデジタルアーカイブを実施している。歴史的音盤は、戦前のSP15万枚のうち、2万5千枚をデジタル化し、地方の公共図書館でも閲覧可能にした。オンライン出版物を国会図書館に納入してもらうべく、制度整備を関係者と協議中である。東日本大震災アーカイブの構築としては、各省庁とともに、ビデオ映像や聞き取り調査、各種数値データの収集を進めている。デジタル映像の収集や、各省庁のアーカイブを国会図書館で横断検索を行えるように、自由に資料を閲覧できるように整備する予定だ。デジタル化されているものは210万冊であり、デジタル化しておくべきと考えている950万冊のうち5分の1。残分のデジタル化は財政問題も考えると難しいが、実現したいと考えている。デジタル化するだけでなく、検索閲覧システムを1月から提供開始。国立公文書館、国立美術館、国立情報学研究所等の資料についても横断検索で閲覧することが可能になった。石川・大阪・京都・滋賀・富山・三重のデジタル化された貴重書も閲覧可能。テレビラジオの脚本や台本、漫画やアニメーションなど、本格的に集められていなかった資料のデジタル化も考えている。ヨーロピアーナと同様に、ワールドデジタルライブラリーをユネスコが運営。国会図書館も参加し日本の文化環境を世界に発信している。このように世界的視野での展開が必要だ。
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 青木 保 文化人類学者,独立行政法人国立美術館国立新美術館長,青山学院大学大学院 特任教授
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「日本文化とは何か」と問われても、大学の先生でもなかなか答えられない。だが海外では、例えばインドネシアならAKB48、アメリカ・ヒューストンならポケモン、タイなら村上春樹といった答えが返ってくるだろう。あるいは回転寿司といった日本発の文化装置は、世界各国で愛用されている。これまでには考えられなかった現象である。現代日本文化が愛好されている状況は1990年代ころからはじまった。当時は不況の始まりの時代だが日本の現代文化が創られ始めた時代でもある。ゴッホ美術館の一部にゴッホとジャポニスムの展示コーナーがある。ゴッホも北斎などを勉強している。第一次日本ブームかもしれないが、現代に目を向ければ90年代以降は幅広く愛好されている。この現象に日本人はあまりに鈍感だ。アメリカ、フランス、イタリアは意識的に、文化、経済、政治の順で売り込んでくる。アメリカは大統領直々にやっている。日本では政府はなにも出来ていない。フランス文学を研究しにフランスに行ったが、そこでも日本の現代文化についての質問をたくさん受ける。漫画が読みたくて日本語を勉強するというのも珍しい話ではない。現代文化から入って伝統文化を学ぶという流れもある。そうした日本文化への注目を利用しない手はない。外来文化に開かれた、それを受容できる国もほかに例をみない。現代の日本文化に吸収され表現されている。海外に流出したものも多くチャンスが少ない。デジタル文化財ミュージアムを考えたとき、現代日本文化の生成過程にある文化も何とかデジタル化し、世界に発信、さらに次の文化を作ることが求められている。これからは文化立国の思想が必要。日本人は日本文化をもっと大切にしなくてはならない。東アジアにおける文化環境は激変した。韓国、中国のテレビドラマの成功、映画からポップカルチャーまで、自国での成功と輸出が始まっている。文化の力を利用しようとしている。本当に文化の時代が来たといえる。文化の輸出や保護にかける費用は日本だけが1000億程度。韓国は1700億程度でかなりの差がある。中国は公表していないが2000億以上あるだろう。現代日本文化の力に目覚めて、世界に広め、世界に日本を位置づけよう。
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