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活動報告
シンポジウム「文化情報の整備と活用 ?デジタル文化財が果たす役割と未来像」報告
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シンポジウム報告
第二部パネルディスカッション


「文化情報の整備と活用」ディスカッション

パネリスト:
吉見俊哉 東京大学大学院情報学環 教授・副学長 ※進行役兼務
島谷弘幸 東京国立博物館 副館長
水谷長志 東京国立近代美術館 情報資料室長
高野明彦 国立情報学研究所 連想情報学研究開発センター長 教授
常世田良 日本図書館協会 常務理事
神居文彰 平等院住職


冒頭、各パネリストからそれぞれの立場での問題意識・課題が提示された。

東京国立博物館・島谷氏は「東京国立博物館で情報処理の考え方はここ10年ほどのこと。個人的にデータ化を進めていた例はあるが、モノに対する価値観、位置づけが研究員によって異なるので、共有化は課題。さまざまな機能が付加され、2,3年前にデータベース・システムが完成。組織内での情報共有促進も進んでおり、公開についても進行している。一方、各博物館の間での情報共有は、どこが主導するかのせめぎ合いもあり進んでいない。中国・韓国も進んでおり、日本が遅れているという危機感がある」と状況を指摘。


東京国立近代美術館・水谷氏は「『敗北を抱きしめて』のジョン・ダワーのことば『なにが大切か、気づく瞬間がある』を引用したい。3.11を経て、大震災でうけた被害を想像し、博物館・美術館・図書館・文書館の人々は、自らの役割や使命を見直す必要がある。震災で亡くなられた博物館員の仕事として、収蔵品のひとつひとつにタグをつけ目録化する作業があった。まさにオブジェクトのドキュメンテーションである。タグ付はデジタル文化財創出の始まりのはじまりであると感じているが、基本的業務として認識されているかは疑問。オブジェクトのドキュメンテーションという第一歩をもう一度確認することを加えたい」と提示した。


国立情報学研究所・高野氏は「『ひとりMLA』と名づけ、小さくてもいいからおもしろいことをやって、徐々に大きくするやり方でやってきた。分野に忠実になるあまりジャンルの作法が違いすぎて会話も成り立たない現状もある。個別の情報を関連づけ、反応をおこし、文化的深まりや信頼性の基点となる活動にしていきたい。『想imagine』は、情報の基点同志がウェブ上あるいは個人の中でつながり、新しい発想を生み出すことになればと考え、はじめたサービス。想定外な使われ方も含めてまずはやってみたい」と自身の立場と課題を述べた。


日本図書館協会・常世田氏は「大学図書館との連携、権利処理等に取り組んできた。アーカイブは国会図書館の動きが重要。知財立国の政策にも関連して、法律を改正し、新刊でもアーカイブできるよう法制化した。最近では国会図書館から公立図書館へはストリーミングでの無料配信に権利者が同意するなど、権利者が個人へ有料配信するビジネスモデルも検討されている。一方で、地域の古文書のアーカイブも進んでいる。スーパーマーケットのちらしの収集などは、30年もやると文化的意味がある。MLA連携では、図書館はアクセスポイントとして一般の人も使うことを想定して、中間地点になる機能が重要。専門人材の育成と永続的な配置の検討も必要で、アドボカシー、政治家への働きかけも重要」と述べた。


平等院住職・神居氏は「民間でもできるぞという意気込みで、4K映像の電送実験を武蔵野・大阪・奈良で行った。12年前にも平等院のアーカイブを行ったが、復元するための調査技術も進化した。MLAの中には世界遺産が入っていない。世界遺産には博物館は出てこない。デジタルの計測だからこそわかることを元にアナログで復元もする。インバウンド(外国人の旅行客)向けの解説を、11カ国語を1年前倒しして、5カ国語連動を来年やる予定」と意気込みを語った。


ここで吉見氏から、それぞれの異なる立場からデジタル技術に触れたとき、どのような展開が可能か、パネリストへ発言を求めた。島谷氏は、「全ての博物館がそうであるということではなく、国立文化財機構の東博としては、研究職の採用はスペシャリスト(専門家)が条件だが、協調性がありジェネラリストになれるかがポイント。東博の約50名の研究職の中には、情報の専門家もいるが、その人間だけが情報についてわかればいいとは考えていない」と指摘。水谷氏は「大きな博物館と小規模や中規模の博物館では人の配置はかなり異なる。最近は、キュレーター、コンサバター、教育普及、情報のように専門分化している。スペシャリティ、ジェネラリティのバランスをとりながら人的配置しなければ」と職種・制度について言及した。また、常世田氏は「日本はスペシャリストをジェネラリストが管理する社会。その前提のもとで、マネジメント能力をもったスペシャリストが必要で、日本人のあり方そのものを問う問題。国も巻き込んで育てる必要がある。大学での司書課程の改正でマネジメント授業を増やした。アメリカの司書は『我々は戦っているライブラリアン』と言っている」と指摘。高野氏が「小さな町のレベルと国のレベルでやっていることを切ってはいけないし、連続的につなげていく必要がある。ファシリテーターの資質は、専門の違う人とコラボレートできる人。ワークショップのような形で、成功経験のある人がインフォーマルでもやってみて、職場に持ち帰れば広がっていくのではないか」と提言した。神居氏は「平等院は寺社であり世界遺産であるが、宗教法人で初めて登録博物館を開館。所有者のストーリーは、フロッピーの中ではなく過去帳の中にあり礼拝の対象になるが、フロッピーは礼拝できない。ミュージアムは、本来ある場所から切り離された場だと思う。そうでない本来の場所も視野に入れて連携できるようにしてほしい」と言及した。
それら発言を受け、吉見氏からは「戦略研究委員会の中で、MLAに、U=University、I=Industryを追加しようという話をした。大学・中高、産業をいれることでつながりやすくなるのではないか、ということを議論してきた」とこれまでの経緯を報告。水谷氏は「本当にやるべきことはユーザーの開拓。届けた先で、実際に美術館で現物に対面してくれるか。ユーザーの開拓がMLAの本来取り組むべき課題」と指摘した。また、神居氏から「我々のフィールドである京都は、地域であり空間。京大のようなUniversity Museumだけでなく、所有者が情報を発信する登録美術館として、テンプルミュージアムとした」と補足した。常世田氏は「MLAは、むしろ象徴。商工会議所にも古い貴重なデータがあった。本人たちはその価値に気づいていないようなものがある。MLAを象徴にして地域を全部つなげていく」とその必要性を説いた。


会場からも、幾つかの質問・意見があった。慶応大教授・金子啓明氏からは「本質的で多岐にわたる報告。提言に終わらないための具体的な方法論の構築が必要。中央と地方、地方間どうし、運動体としてのアーカイブを目指すべき」との意見があった。それに対し、島谷氏は「加えて、データ蓄積のためにデータをどう出してもらうかが問題。大中小それぞれの博物館が協力することのメリットを明確にし、面倒なだけとならないようにする必要がある」とした。また、印刷博物館館長・樺山紘一氏は「何のためのデジタルアーカイブやデジタル文化財かをはっきりさせる必要がある。過去には日本社会の民主化のためということがあった。多様性を含み込む仕組みが必要」と言及し、また、筑波大学教授・杉本重雄氏からは、「MLAに関しては、受益者のリクワイアメントが出てこないと難しい。使い方、利便性を伝える必要がある」との指摘があった。それを受け高野氏は「長くやることで社会的に認められることがある。最初は反対していた学芸員も喜んでいる。動かしてみると使い方が発展していく。それが大きな輪に広がっていく」と言及。吉見氏は「キーワードとして、地域の中でMLAやデジタルアーカイブをどう展開して連携していくのかメリットを明確にする必要がある」とし、「樺山先生がおっしゃった、大きなところで“何のために”を明確にしていく。この“大きなところ”と“小さなところ”をつなぐ具体的な『工程表、プランニング、戦略』が必要。100人委員会により、100人程度で議論できるような場を作り、実現化プログラムを組み立てていくのが、次のステップ」と言及した。
最後に、青柳氏は「地域のつながりということで『ちのゆい(知、地の結い)』ができないか。『ちのゆい』運動の中でデジタル文化財を広げていく。欧米の蓄積文化に対して日本は循環文化系であり、記録性を社会的機能として持っていない。漠然とした集団の中でノウハウを吸収していくのが日本の特質。だからこそ、国際社会においても、記憶を記録していくことの必要性がある」と言及され、ディスカッションを終えた。

島谷弘幸氏
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水谷長志氏
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高野明彦氏
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常世田良氏
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神居文彰氏
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パネルディスカッション会場写真
パネルディスカッションの様子

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